鍵穴

梅雨にも入らず、毎日がいい気候。やや蒸し暑いところにさらりと吹く風が気持ちいい。引越したところは高台で風の流れが良いようだ。静かだし緑もあるし。買い物に不便なのは難点だけど。


鍵穴と鍵のようにしっくりかみ合ってたものの片方がなくなると、ひどく頼りない気分になる。体の片方を無意識に探す。幻肢に似ている。一度、何かの組み合わせの一部になってしまうと単体に戻るのは難しい。でも単体になることは往々にして起こる。不安定な気持ちを抱いたまま凌いでいかないとダメなのだろう。何か大事なものを忘れているような気がする。何がないのだろう、という気になる。二つで完璧だったもの。でもそれはまた別のものでも組み合わさるので慌てることはない。タツノオトシゴのようにピロピロと水中を漂う。しかしこんなに不完全なものになるとは思わなかった。慣れつつはあるけど。一人で全人になるのはなかなか難しい。船と港。なるほど。


ともかく実利的なところはようやくクリアできたので後は本体のところ。あるものだけで勝負。ほとんど何も残らなかったけど、死にはしなかった。正直に行こう。どこかに物好きもいるはずである。何もなくったっていいじゃないか。これでいい。