過去は静止している

あの時は自分のことで精一杯だったなと思う。
なぜ君がしようよといったのか、怯えているのか、笑顔が淋しげだったのか、探るような目で見たのか、終わりが近づくにつれて投げやりだったのか、そういうことは一切考えなかった。
自分のことでいっぱいだった。

時が経って考えてみると、何を言いたかったのかがぼんやりとわかる。自分が外界にどういう影響を与るかがわかり、人々が何を考えているかを複数同時に感じられるようになってみたら、その単純な気持ちに気づく。
なぜ彼女からはけして好きと言わなかったのかも。


時々、記憶力がうらめしくなる。それはDVD-Rのように何度繰り返し再生されても劣化することはない。リフレイン、リフレイン、リフレイン・・・。

それは書き換えられることが無い。
過去は静止している。
もしかしたら、成長しようとすることはもはや意味を持たないのかもしれない。ただ、過去から新たな哀しさを掘りおこすだけで。

それでも、今からでも君の気持ちを少しでも感じられればつながるものがあるような気がする。
それは社会から見れば取るに足らないことで、忘れ去られ、消えていくものだとしても。

多分、まだ同じ空の下で生きているだろう。
少しだけ希望を持って考えてみる。もし人が言葉や風景以外で、通じ合えるとしたら。思うだけで気持ちが少しでも伝わるとしたら。
もうどこにいるかもわからない君に、あの時応えられなかった思いがかすかにでも伝わるかもしれない。
やっぱり君が必要だったんだよ、と。

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