エンドレスレイン

古いテープを整理していたら、Xのライブのテープが出てきた。懐かしくなって早速かけてみる。「紅」そして「X」と続く。
そうそう、「紅」は私のバンドデビューの夢を断ち切った曲だった。ある日寝ながらラジオを聞いていると、「紅」がかかったのである。スローな歌い出し、そして嵐のようなメタル。ツーバスのリズムとめちゃ格好いいリフ。高音でセクシーなボーカル。こんな歌が普通に流れるようなロック業界なら、俺に勝ち目は無いのかもしれない。そしてカラオケで紅を歌い、頭の血管が破裂寸前まで行ってますますその思いは強くなり、私のロック界へのデビューの夢は露と消えた。
しかしあれから、10年以上経つと思うけど、結局日本のHR・HMで紅を超える曲は現れなかった。やっぱりバンド続けてた方がよかったのかもしれない(笑) まあいろいろ将来について悩んでいる間の悪い時に紅がかかったもんである。
それはともかく。
そういうハードな曲も良かったが、バラードも抜群に良かった。表題の「エンドレスレイン」もとても好きな曲だった。その頃、私の心も瓦解しており、部屋を暗くしてエンドレスレインを聞いていたものである。



I’m walking in the rain
行くあてもなく 傷ついた体濡らし
絡みつく 凍りのざわめき
殺し続けて 彷徨う いつまでも
Until I can forget your love



忘れられるまで。
歌が心を癒すというよりも、その歌が私を現実から離れさせ、その酔いの中に身体をうずめていた。
そんな時に逢ったのが、今日子だった。飲んだくれてる私のそばにいて癒し続けた彼女。言葉で、或いは身体で。
「いいよ、好きなだけして」
と月明かりの中で、裸で私の前に座った彼女。俺は彼女を好きというわけじゃなかったのに。そして痛みで何も気づかなかったのに、今日子はそばにいてくれた。
そしてその時に二人でよく聴いた曲。



Endless rain,fall on my heart 心の傷に
Let me forget all of the hate,all of the sadness



「今日子は、俺の上に降る雨みたいだね」
とつぶやいた。
「私、雨女なの?」
「いーや、そういうのじゃなくてさ。優しい雨。体中が柔らかくなるような雨。」
「そっか。雨かー」
彼女は私の横に座って手を握った。
「はやく芽が出るといいね・・」

それでも、私の心が癒える頃、彼女は他のことで傷つき、会えなくなった。彼女は彼女の恋人とうまくいかなくなり、自然と遠くなってしまった。

傷には自分で癒せるものと他人にしか癒してもらえない傷がある。今日子はそんな私の傷の上に優しく降った。何度も何度も。
撫でるように。包み込むように。

そう、彼女の傷の上には、私は降れなかった。今日子のことが少しずつ私の中でふくらむ頃にはもう会えなくなっていたから。
今日子の傷の上には誰かの雨が降ったんだろうか。ちゃんと降ったんだろうか。



Endless rain,fall on my heart 心の傷に
Let me forget all of the hate,all of the sadness



今日子。

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