ホッとする

ある女の子とたまたま時間が合い、軽く飲んでたら終電の時間が来た。
「終電だよ」
と言ったのだが、彼女はぐずぐずして帰ろうとしない。彼氏持ちだし、大それたこともちーとも考えてなかったので、まさかなぁと思ってたんだけど、なんと彼女の方からしたいと言ってきた。
困る。っていうか、私にだって心の準備というものがある。嫌いじゃないが、さりとて、とりたてて好きというわけでもない。
しかし、女の子から誘われて断るのは男としてどうか。恥をかかせていいものかどうか。グラスの中の氷を壁にあちこち反射させて考えていると終電は尽きた。


「じゃあ行きますか」
彼女は頷いてついてくる。なんでこんな展開になったんだろう。でもまあここまできたらなりゆきでしょうがないよなと思いつつホテルへ。
でもまあやってみるとやはり気持ちよく、イチャイチャとするべきことをする。そしてピロートークで聞いてみると「彼氏が腰を痛めてて」とのこと。ちょっと動いても痛いとか・・。どういう体位でもできない、とのことだった。もしかしてオレの体だけが目的なのか・・?(-_-;)
でもそう思ってたらわりと彼女は気分を出してきて、プラトニックの愛は信じられないとかなんとかでキスをしてくる。面倒くさいことにならなければよいが・・、と思う。でものんびりと腰を振っていたら、なぜかホッとした気持ちになってきた。
そういえばこの頃は仕事に追われ、マシーンと化していた。キーをまわしても切れないエンジンのように常時火が入っていた。彼女とのセックスでその火が鎮まり、おだやかな気持ちになることができた。そう、地面に足がついたような。


「ギュッと抱いてみて」
と彼女が言うので抱いてあげた。
「いくら信じあってると思ってもそれは私だけで、相手は自分のことを同じように思ってくれてるか、わからないよね」
ちょっと暗くなって彼女は言う。
「信じれば、相手も信じてくれると思うよ、多分。」
私は言った。そもそも相手の事をいちいち疑うのは面倒くさい。信じてればいいし、裏切るなら別れればよい。いくら考えたって相手の範疇のことだから動かすことはできない。そう彼女にいった。


「でも考えちゃうのよね・・」
と彼女は腕組みして眉をしかめた。
「本当の自分で行けばいいんだよ。それでOKならいいし、ダメならしょうがない。相性もあるしね」
それでも彼女は尚も悩んでいた。まあ二十歳くらいなら悩む年かもしれない。自分なりの答えを出せたらいいね、と思った。


夜があけて彼女を彼女の電車の駅まで送っていった。
無駄話しながら歩くその道のりはなんとなく懐かしい感じだった。
彼女は彼のことをとても好きなのだそうで、それは人生で初めてのことなのだ、と言った。
大事にしろよ、と私は言った。どうやら面倒なことは回避できそうだった。(そういえば私の人生の中では「面倒を回避する」というのはかなり重要なファクターになってきていることに最近気づいた)


しかし、お互いに内圧を抜くことのできたいいセックスだったなと思った。
それはスロウで肩の力の抜けた、ホッとするセックスだった。

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