百万ドルトリオを手に入れる

いきなり始まった読書熱に驚いている。本を手放せなくなって息せき切って書店に走りこみ、たんまりと購入。乙一くんの「GOTH」をゲット。それを半日で読みきってしまい、切ないといわれている乙一くんの初期作品と夏目漱石草枕夢十夜・坑夫を買い込む。冬ごもり前のアナグマがせっせと巣穴にエサを溜め込むように本を購入。ムフフ。
ついでにレコード屋に寄って大公トリオを買いに行く。海カフの影響をもろに受けている。しかし、クラッシックのCDを買うというのはなかなか恥ずかしいもので、どう見たって私と高尚なクラッシックCDはマッチしないし、いわばDCブランドの売り場に入るような緊張感が襲うのである。
とりあえずこそこそと売り場に侵入し、バッハのところを探す。しかし、ない。バッハのコーナーは広いし、面倒くさくなったので、売り場の初老のおじさんに聞いてみる。先ほど客との会話を小耳に挟んだところ、たいそうクラッシックに詳しいようだ。多分クラッシックを愛していると見た。
私は恥ずかしがりながらも聞いてみた。
「あのー、バッハの大公トリオはどこにありますか?」
「・・?」
おじさんはジャケットの整理の手を止めてじっと私の顔を見た。ううっやはり私はクラッシックを聞くような高尚な顔に見えないのだろうか?(;´`)
でも問題はそんなことではなかった。
「それはバッハでなくて、ベートーベンの大公トリオではないですかな?」
がびーん! ベートーベンだったのか!顔からファイヤーである。思わず「高橋は頭が悪いのでよくわからないのです」と言い訳しそうになった。
ともかく恥ずかしさに小さくなっておじさんに連行される私。バッハとベートーベンって字が似てるし区別つきにくいんだよねぇ。そしてようやく大公トリオのところへ。おじさんが指し示してくれる。
「これですね」
「あ、これですか。あの、100万ドルトリオのやつはどれですか?」
はたして、おじさんは100万ドルトリオのことを知ってるだろうか?
「100万ドルトリオですか・・・これですね」
「おお!これですか!」
「これは昔ながらの名盤です」
と言うおじさんの目は愛おしげに目を細めてられていた。なんていいおじさんなんだ!( ´ー`)
「ありがとう、これ買います」
と勇んでレジへ。おじさんは微笑んで静かにレコードジャケットの整理に戻っていった。
エスカレーターを降りながらふと思う。
ああいう感じのいい人って自分の人生にたまに出てきたよなぁと。その時、私は「ああ、いい人だなぁ。・・・。→<終了>」という風に過ごしてきた。でも実はそれって、すごくもったいないことをしてたのかもしれない。いい人だと思ったら、また会いに行くべきだったんじゃないかと。そこから何かが始まって行くんじゃないかな。映画「耳をすませば」で主人公の少女は何度も坂の上のアンティークショップのおじさんに会いに行く。ああいう感じ。私はあんまり人とうまくいかないことがわかっているので、いい人だと思ってもすぐにスルーしてしまうんだけど、ちょっと考え方を変えてまた会いに行くべきかもしれない、そうすればもっと仲良くなれるかもしれないと思った。
帰って聞いてみると100万ドルトリオは素晴らしかった。村上春樹はロックの趣味はよくわからないけど、クラッシックはいい趣味してると思う。(余談ながらプリンスとかレディオヘッドはよくわからなかった。ロックはやはり速くてうるさくてパワフルな奴がいいと思う)。
こういう質のいいクラッシックというのはCDよりもレコードで聞いたほうがいいんだろうなぁ。あのレコードの最初のプチプチいう音がわりと好きである。
ともかく、今度はシューベルトピアノソナタをまた買いに行こうと思う。あのおじさんにいろいろ講釈を聞いてみよう。また「名盤ですよ、ムッシュー」みたいに言ってくれるとうれしいんだけど。
一期一会というより一期百会くらいを目指して頑張ってみてもいいかもしれない。

日記才人投票