幻の名水を求めて

私は市販の水ならボルビックが好きである。エビアンとかバカ高いだけの日田天領水とかいろいろあるけど、いつもボルビックを買っていた。
しかし、近所の定食屋で出す水は、もっとうまいのである。まろやかでいて爽やか。どこにも売ってないような水なのである。こんな名水あるのか!ってなもんである。凄く安い食堂なのに不思議だった。
で、ある日、料理してるオッチャンに「この水、どこの水ですか?」と聞いてみた。すると、
「それは…ちょっと言えないね」
といつもは気さくなおっちゃんがニヒルに笑うのである。しつこく問い詰めても
「企業秘密だよ」
と口を固く閉ざして教えてくれない。くそっ! どうしてもあの水が飲みたいっ! と私は時には水のためにその食堂に行くのであった。
ある日、ふとトイレを借りると、脇から厨房の中まで見えた。すると、おばちゃんが客に出す水を緑の容器の蛇口から出すのが見えた。
(あれか…。あの水が幻の名水!)
しかし指をくわえてみるだけだった。業務用の水じゃ勝てないか…。


そんなある日。私は幻の名水の夢を見た。軽い風邪だったのか喉が渇いて、深夜に起きる。フラフラと冷蔵庫を開けるとビールしかなかった。
(余計喉渇くじゃん…)
背に腹は変えられず、水道からしょぼしょぼコップにと生水を汲む。体に悪そうだがしょうがない。あの名水が飲みたいと心から思った。
するとそこで奇跡が起こった! なんとコップに入れた水を飲むと、それがあの名水のように感じられるのである! 夢か? いや、現実?
その時、頭にあの店の厨房の光景がスパークした。
(まさか…! あの緑の容器はウォータークーラーだったのでは!?)
謎は全て解けた! その店は近所なので、水道水の源流は同じである。あの名水は水道水だったのである! それを冷やしただけだった!
ガーーーン。
水道水がこんなにうまかったとは…。
まあそれ以来、水を買わなくて良くなったのだが、自分の味覚のアホさにあきれたのである。

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