夏の葬列

友達から訃報が届いた。昔、私の先生だった人が亡くなった、と言う。
そうか、ずいぶんと体を悪くされていたもんなぁ、と思う。
幸せな死だったのか、それとも、と考えたが、多分、幸せなだったのではないかと思った。生ききったという感じ。
ちゃんとした人生を送って亡くなられたのだと思った。大往生だろう。
むしろ和やかな葬式なのではないかと想像した。

私は使ったことのない礼服を引っ張り出し、袖を通した。葬儀作法をネットで調べ、香典を用意する。
葬儀場に向かっていると、もう初夏で暑くて、歩くだけでも汗が出た。
葬儀にはたくさんの人が来ていた。いろんな人から花が贈られている。愛されていたのだなぁと思う。私なんかは先生の人生のほんのちょっとの登場者にすぎないが、やはりいろいろな点で学ぶものがあった。
私の葬式には何人が来てくれるだろう、と心の中で指を折ったが、片手をも満たさないままカウントが終了した。…葬式はしない方がいいかもしれない。

葬儀場の入り口と棺の上に遺影が飾られていた。あの笑顔があった。このところ諸事で行き詰っていた私に語りかけられた気がした。
「おめぇ、そんなしょうもないこと気にすんな」
そう言って笑っていた。そうか。そうか。気にしないでいいことですよね。弱っていた自分に気づいた。不肖の弟子なのに励まされた気がした。泣きそうになった。
焼香をすませると、私はバスに乗って帰った。ネクタイをほどくと私はメガネをずらして頭にのせた。
先生はよくこうやってメガネを頭にのせてダンディであった。私はまだそんなに似合わないけど、そのスタイルだけはこっそりともらった。いつかはばっちり決まるようになるだろうか。
ああ、またあのいつもの居酒屋でもう一度先生と飲みたかったなぁと思った。
今度一人で行って飲んでこよう。