藤沢周平を読む

とある飲み屋で侃々諤々の議論を交わしていた。曰く池波正太郎や。また曰く藤沢周平や、と。心の底から池波ラバーである私は、時代小説において(司馬とか吉川の伝記は除く)、池波以上の書き手は考えられなかった。あえて言うなら柴田錬三郎だが、あれはちと暗すぎるし、やはり池波だろう。鬼平は言うに及ばず、剣客商売や梅安、真田太平記上泉伊勢守などワクワク、そして胸キュンする展開は池波をおいて他になしと私は激しく主張した。そしたら彼曰く、
「お前は藤沢をちゃんと読んだのか?」
とのこと。そういえばぼんやりとしか読んでなかった。うーむ、確かに相手を知らずして勝ったというは奇なり。彼はさらに言う。
「『蝉しぐれ』を読め」
と。
挑まれて逃げるは武士の恥、と早速本屋へ。古本屋にはなく、正規の値段にて購入。むむ、650円とは高額なり。そしてパラリとめくってみると、なんと「たそがれ清兵衛」は藤沢の作とのこと。ほほう・・。
さて、読んでみる。まあ、ありがちな展開かぁ?と思いつつ読み進めていると・・・やめられなくなった(笑) お主、できるな? さすがに山本周五郎の後を継ぐものといわれているだけあって、正統派の美しい文章。そしてわびさびがなんともよい。ややリアリズムに走るきらいのあるものの、なかなか見事、満足の吐息を漏らして一気読み。なるほど。特にA型の人は好きになる文章なんじゃないかなと思う。
ともかく、凛とした姿勢のよさというのが感じられる。日本の古きよき古式美というか・・。行動規範の美しさというべきか。
人たるもの、やはり行動規範を持つべきだと思う。卑しき心に流されぬ誇り。品。そう、道端で座ったりしない。電車の中で化粧しない。日本人が失ってしまった物がそこにあった。読んでて思わずシャンとなる。なるほど。ファンの気持ちもわかるなぁ。池波がカレーライスとしたら、藤沢はナスの塩漬けと共にかき込む冷たいお茶漬けといったところか。
そう、どっちが上かなんて議論する必要はない。
どっちも楽しめばいいのである。

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